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新型ティルトローター機「V-280 Valor」UH-60 ブラックホークヘリの後継機としてアメリカ陸軍が採用

V-280 Valor


【アメリカ陸軍 / 2022.12.5】

UH-60 ブラックホークヘリコプターの後継機が決定!
ティルトローター機「V-280 Valor」を採用したと発表


Photo by US Army

12月5日、アメリカ陸軍はUH-60 ブラックホークヘリコプターの後継機としてティルトローター機「V-280 バロー」を採用したと発表しました。

V-280 バローはベル・テキストロン社が開発したもので、2017年12月に初飛行に成功、ヘリコプターのような垂直離着陸が可能なティルトローター機です。

飛行機のような速度とヘリコプターのような機動性を実現した新しい軍用機。

アメリカ陸軍の進めているFLRAAプログラムはUH-60ブラック・ホークの後継機を開発するため、2019年から開始された計画です。

FLRAAプログラム=将来型長距離強襲機(Future Long-Range Assault Aircraft)
→アメリカ陸軍「UH-60ブラック・ホーク」の後継機開発プログラム


将来型垂直離着陸機(Future Vertical Lift, FVL)計画の一部で、この計画では他にも様々な航空機が一新される予定です。

後継機の選定では、シコルスキー社&ボーイング社の共同開発による「デファイアントX」「V-280 バロー」の2機種で競合されていました。


v-280 valor
Photo by Bell Textron Inc.

シコルスキー社&ボーイング社の
「デファイアントX」

Bell 社の「V-280 Valor」
世界初のティルトローター機「オスプレイ」も開発した企業

ディファイアントX
Photo by Lockheed Martin

FLRAA計画は、UH-60よりも高い機動性と、高速飛行が可能な航空機という性能が求められていました。

先日、ベル社は陸軍と契約を結び、最初の2億3,200 万ドルを受け取りました。

このプログラム全体の予算は71 億ドルになっています。

コスト

2億3,200万ドル / 306億円(1ドル132円)
=仮想プロトタイプを19ヶ月後までに完成させるコスト(最大13億ドル)

プログラム全体予算:71億ドル / 9374億円
=プログラム総額+プロトタイプ+ 最初のロット生産コスト

UH-60 ブラックホークとは?

uh-60 ブラックホーク
Photo by U.S. Army
★運用開始:1979年
★種別:中型・多目的軍用ヘリコプター(汎用輸送ヘリ)
★運用:アメリカ陸軍
★輸送:C-130輸送機で空輸可能
★ドアガン:12.7mm重機関銃/ M240機関銃
★武装:AGM-114ヘルファイアミサイル、70mmロケット弾など搭載可能
★バリエーション:特殊部隊、海兵隊、海軍、空軍など様々な派生型がある

シコルスキー&ボーイング社「デファイアント X」

アドヴァンスト・ブレード・コンセプト・ローター(ABCローター)
ディファイアントX
Photo by Lockheed Martin

★二重反転式ローターを採用
(複合同軸設計)2 つのローターを上下に重ね、それぞれが反対方向に回転
★メンテナンス、コストなど運用性に優れており、UH-60と比べ、2倍のスピードで2倍の距離を飛行可能


V-280 Valor 性能

v-22オスプレイ
Photo by U.S. Navy

ティルトローター機といえばV-22オスプレイです。

こちらも同じくベル社が開発しており、アメリカ海兵隊や日本の陸上自衛隊で運用されています。

V-280はオスプレイよりもひと回り小型の機体。

「Tilt」=「傾ける」

ティルトローター機とは名前の通りローター、回転翼を傾けることができる機体です。

ヘリコプターのように垂直離着陸が可能。

回転ローターだけ可変式
v-280 valor
Photo by U.S. Army

オスプレイではエンジンごとローターが傾きますが、V-280ではエンジン・ナセルを固定し回転ローターだけが傾きます。

側面ドア
V-280 valor
Photo by U.S. Army

オスプレイではエンジンごと傾いていたために、高温の排気熱の問題で、後方からしか乗り降りができませんでした。

しかしV-280ではそれを解決し側面ドアが使用できるように。

これにより、複雑な設計にはなったものの、機体の小型化が実現、側面ドアの採用という大きな改善が見られました。

オスプレイでの経験をもとに開発されたこの機体は、運用中に発覚した問題点などを積極的に改善し、通常ヘリのようにローターが上向きの状態で垂直離着陸し、飛行時はローターを前傾させることで固定翼機の速度で飛行できます。
 


ティルトローター機を実用化した機体は「V-22オスプレイ」が世界初です。

この「V-280 Valor」で3機目(2機目は民間機)、そしてベル社は3機種全ての開発に携わっています。

飛行テストでは競合するヘリが時速 482 km未満だったのに対し、V-280は時速 555 km 以上のスピードで飛行しました

ブラウンアウト状態 (空気中のほこりや砂による飛行中の視界の制限)

ティルトローターで問題となっていた着陸時に起こるパイロットの視界の悪化。

これについても、アメリカ陸軍では今後デジタルコックピットや全自動フライバイワイヤなどデジタル化を進めることで、安全性を高める方針です。

このFLRAA計画はアメリカ軍のマルチドメイン作戦において重要な近代化の一つです。

マルチドメイン作戦
=陸、海、空という従来の領域(ドメイン)に宇宙や電子戦、サイバー攻撃、情報戦なども組み合わせ、全領域で連携を取り、作戦を展開する新しい戦い方

V-280 Valorは自律飛行試験にも成功しており、現在も様々なテストが行われています。

希望性能

1機あたりの目標コスト:4,300万ドル
★戦闘行動半径(無給油):
 陸軍 370 km〜676 km 海兵隊 560 km〜830 km
★最大巡航速度:
 陸軍 460 km/h〜565 km/h 海兵隊520 km/h〜611 km/h
★航続距離(無給油):
 陸軍 3,195 km〜4,520 km
★ペイロード(機内):
 陸軍 2,000 kg 海兵隊 2,400 kg
★乗員:
 陸軍 12名 海兵隊 8名
★離陸時上昇速度:毎分152m
★高度:1800mまで対応
★外部貨物フック:4.5 t 〜6 tまで運搬可能
 

運用・配備

置き換え対象UH-60:2030年〜退役予定

最初のプロトタイプ:2025 年に完成予定→その後徐々に配備

最初のFLRAAは1000機前後の導入と見られ、数十年間はFLRAAとUH-60を組み合わせて運用していくと考えられています。


 FVLプログラム

将来型垂直離着陸機(Future Vertical Lift, FVL)

→フローラをはじめ、軍用ヘリを一新するアメリカ軍の計画では、その他にも攻撃偵察ヘリ、輸送機などが垂直離着陸機として新しく開発されています

統合多用途・将来型垂直離着陸機計画(Joint Multi-Role / Future Vertical Lift)

JMR-Light(軽量級)

・偵察ヘリコプター「OH-58 カイオワ」→「シコルスキー / レイダーX」「 ベル / 360インビクタス」の2機種から選定

ベル社 / bell 360 invictus

bell 360 invictus
Photo by Bell Textron Inc.

シコルスキー社 / Raider X

raiderX
Photo by Lockheed Martin

・攻撃偵察機として2030年の導入予定

JMR-Medium Light(準・軽量級)

・未定

JMR-Medium(中量級)

・汎用ヘリコプター「UH-60 ブラックホーク」→ベルV-280 Valorに決定
・攻撃ヘリコプター「AH-64E」→未定

JMR-Heavy(重量級)

・輸送ヘリコプター「CH-47 チヌーク」→ベル&ボーイング「クアッド・ティルトローター (QTR)」

・2035年導入予定

JMR-Ultra(超・重量級)

・戦術輸送機「C-130J スーパー・ハーキュリーズ」など→垂直離着陸機を開発中

・固定翼・中型戦術輸送機 と同性能の垂直離着陸機を「超大型機級」の区分で創設し、2025年の導入予定


アメリカ軍では新しく誕生する攻撃偵察ヘリや無人機を展開させ、ルートを確保したのち、フローラを展開させるという想定で、今後は航空機同士の連携、部隊間での情報共有などがますます重要となっていきます。

それに伴いデータを共有させるシステムなどの開発も日々進行中です。

ベルのV-280 Valorのプロトタイプが完成するまでまだ少し時間がかかりそうですが、UH-60をはるかに超える能力とオスプレイの飛躍的な進化が見られると期待されています。

 

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