近未来の軍用MRゴーグル【IVAS配備】
複合現実(MR)統合視覚増強システム(Integrated Visual Augmentation System:IVAS)
【アメリカ陸軍】
VR/AR技術を超えた拡張現実ヘッドセットで戦闘部隊に革命
アメリカ軍の最新MRヘッドセットシステムIVASが陸軍に配備
マイクロソフト社が開発するMRゴーグルHoloLens(ホロレンズ)を軍用にカスタマイズした近接戦闘部隊用のMRゴーグルとは?
アメリカ陸軍はこれまで、最新の技術を使い高性能なナイトヴィジョンやサーマルヴィジョンを装備することで、夜間を含めあらゆる環境下で常に優位性を獲得してきました。
そして今回、ゲームチェンジャーとなりえる、全く新しいヘッドセットがアメリカ陸軍に導入されました。
アメリカ陸軍をはじめ、NATOその他の先進国では、ARやMRといった拡張現実を可能にするヘッドセットの導入を積極的に目指してきました。
陸軍は2018年11月にマイクロソフト社が開発するMRヘッドセットゴーグルHoloLens(ホロレンズ)の購入を決定。
一般向けに既に販売されているホロレンズ
アメリカ軍はこれを軍用に応用できないかと考え、統合視覚増強システム(Integrated Visual Augmentation System:IVAS)として、マイクロソフトと共同で開発を行ってきました。
2021年3月量産がスタート
およそ4年間に渡るトライアルを経て、近接戦闘部隊向けの量産がスタートしました。
この契約では12万台以上のヘッドセットを購入するとされ、その費用は220億ドルにも上ります。
IVASはナイトヴィジョンやサーマルヴィジョンなど、様々な状況認識能力を一つのヘッドセットで可能にする一体型の装備です。
ナイトビジョン / サーマルビジョン / 昼光センシング / 輪郭強調 / 照準器 / 一体型GPS / ホログラフィック・マップ / 敵味方の位置、方位の表示 / 他の兵士やドローンの視界を投影など
グリーンベレー、レンジャー、空挺師団、海兵隊の上陸部隊などが既にIVASの運用テストをしています。
VR、AR、MRの違い
ホロレンズのような、仮想現実を可能にするデバイスには、Virtual Reality(仮想現実:VR)、Augmented Reality(拡張現実:AR)、Mixed Reality(複合現実:MR)の3つのタイプがあります。
VR
3DCGで作られた世界や、360度カメラで撮影した映像の中に入ることができる仮想空間
AR
目の前の現実世界にデジタル情報を付け加える技術で、現実の風景に情報や映像を重ね合わせて表示
戦闘機に乗る場合、実際には乗らず、CG上のコックピットに入るシミュレーターがVRで、実際に乗ってヘッドディスプレイに情報を表示させることができるのがAR
MR
MRはVRとARを融合したもので、表示されたデジタル情報を触って操作できる技術
実際にない物体をホログラムとして表示し、それを触って動かしたり、リアルタイムで他者と共有可能
HoloLensはこの中でもMRを実現するために開発されました。
HoloLensは5本の指で大きさを変えたり、ボタンを押したり、自由に操作することができます。
このようなデバイスはすでに多く登場していますが、そのほとんどがゲームなどエンターテイメント製品です。
HoloLensでは、産業使用に重点を置き、2019年には法人向けに販売が開始されています。
陸軍が採用したHoloLens2ではアイトラッキング(視線追跡)機能が追加されており、頭や体を動かすことなく、ホログラムに焦点を合わせることが可能になりました。
配備される予定の IVASは、70 度の視野を持つとされ、一般的なナイトビジョンの視野40 度のほぼ 2 倍となります。
アメリカ陸軍はHoloLens 2をカスタマイズしたIVASを戦闘車両部隊に導入する計画を進めています。
移動中の状況認識を向上させることができるとし、M2ブラッドレーやストライカーなどで運用テストが行われています。
IVASを装着している兵士は、車内で画面などを見ることなく、外を見ることができます。
地形、目標位置など任務の最新情報を受け取ることが可能で、車両外側に設置された全方向カメラからの情報をヘッドセットに表示することもできます。
アメリカ軍では近接戦闘部隊でのIVAS運用を考えており、他の様々な部隊でも運用テストが行われています。
性能
・兵士は、ライフルの暗視スコープを介して、角の先を確認することができ、隠れながら銃を向けることが可能
・暗闇での状況認識をはじめ、デジタル地図などの戦術データを表示、共有することが可能
・重量1.1kg
今後IVASでは、様々な機能が追加される予定です。
顔認識:ターゲットの誤認を防ぎます
テキスト翻訳:外国における任務で文書などを通訳に頼らず読解可能
生体情報のモニター:兵士のバイタルを計測し、負傷時の怪我の程度を把握することができる
通常一般的な兵士はナイトビジョン、サーマルビジョン、無線やタブレット、GPSなど様々なデジタル機器を装備する必要があります。
しかし、これらが全て統合された一体型ヘッドセットでは、ナイトビジョン、サーマルビジョンをはじめ照準器や光学機器など装備する必要がなくなります。
★3Dマップ:任務開始前に利用することで、より分かりやすく作戦を伝達
★伝達:これまでは戦場で無線やハンドサインにより情報を伝え合っていましたが、情報は全てヘッドディスプレイに投影されるため、目線を外すことなくコミニュケーションをとることが可能
問題点
順調に進められている計画ですが課題点もあります。
可視化や情報の流れが多すぎるため、人間の感覚による戦術的な認識をどれほど削いでしまうかという不安の声も。
また命がけで信頼しなければならないデバイスにもかかわらず、その情報はなりすましやジャミングされていないことが大前提です。
誤った情報により、死傷者を出すことになるという不安が少しでも残れば、使用することはできません。
1秒単位で瞬間的に考え行動する兵士たち。
射撃した次の瞬間には別の指示を出し、隠れ、弾薬を補充し、負傷した仲間を助ける。
このような状況下で兵士の妨げになるような情報が表示されないよう調整する難しさも挙げられています。
MRへの過度な依存も懸念され、基本的な戦闘スキルが衰えないよう、地図、コンパス、分度器を使ったアナログのナビゲーションを行うことの重要性も指摘されています。
IVASが使えない状況でも、任務を達成できるように、アナログデジタル両方に対しバランスよく訓練することが求められています。
実際に運用テストを行なった兵士たちに、聞き取り調査を行なったところ問題点も浮上しました。
IVASによる頭痛や眼精疲労、吐き気など、任務に影響を与える身体的不快感があり、装着して任務を行った兵士の80%以上が、3時間以内にこのような症状を示したという報告が上がっています。
その他ディスプレイの明るさや信頼性の低さにも改善が求められるなど批判的な声もあるなか、部隊のナビゲーションや動きが強化されたという肯定的な意見も。
Microsoftと陸軍は迅速な改善にあたりながら、陸軍、海兵隊、特殊作戦部隊への配備計画を進めています。
IVASのようなMRが世界中で導入されれば、戦い方は大きく変わりますが、それに頼りすぎることなく、アメリカ陸軍ではこれまで通り、これまで以上にアナログでの訓練・経験を重要視しています。
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